ひさし

ひさしさんのプロフィール

プロフィール最終更新日:

はてなID
hisaboh
ニックネーム
ひさし
自己紹介

眠れない夜に僕は何処へとあてもなく家を出る。

冷たい夜の気が頭と髪の間の もやもやをすき取ってくれるように期待しながらしばらくぶらぶらと歩いてい ると、ふと二匹の猫が後を尾けてくるのに気付いた。

その可愛い小さな頭を撫 でてあげようとそっと近付くと、猫もその分だけ後ずさりして僕と猫との間は ちっとも縮まらない。

仕方なく僕はその場に腰を下ろして猫を観察した。猫は 確かに僕のことを見ていて、目は合うのだが、ちょっちょっと口を鳴らしても、 手を振って、おいでおいで、と呼んでも僕の方には近寄らず、用心深そうにその場で足踏みをしている。

僕は諦めて立ち上がり、くるりと振り返るとそのま ま歩き出した。目の前の建築物の影には丸い月が静かに佇んでいて、僕は煙草 を一本取り出すと口にくわえて火を点けた。

猫は二匹ともまだ僕の後をついて 来る。

僕が立ち止まると、猫もまた立ち止まった。猫は男が通りの角を曲がっ てももまだついて来た。たとえ猫だけでも、自分のことを見ていてくれるものがいるのだ、と僕はちょっと感謝したいような暖かいような気持ちになって歩き続けた。誰かが見ていてくれる事がどんなにかこの僕にとって必要なことっだっただろう。それを僕が気付いたのはほんの二、三年前のことだ。僕は僕を 見てくれるものがいるおかげで存在できるのであって、誰もいなかったらもしかして僕は存在しないのかもしれなかった。

僕は家に帰ろう、と思った。

気がつくと猫はもうどこにも見当たらなかった。